がお茶を啜ったのと、部屋の扉が勢いよく開いたのはほぼ同時だった。

吃驚して振り向くと、すごい形相のスクアーロがそこに立っていた。





Do you know?




彼が手に持っているのは、先日スクアーロが任務に行った直前に悪戯で彼の部屋に置いた吃驚箱。

2、3日ほど前のことなので置いた本人、自身もわすれていたそれは、不細工なテルテル坊主を模した人形が箱の中から飛び出しバネの動きに合わせて ぼよん、ぼよんと揺れていた。

それを片手に、何も言わずツカツカと歩み寄ってくるスクアーロにビクビクしながら、は皿に盛られているクッキーを齧った。

、これはなんだぁ?」

ずいっと吃驚箱をの目の前に差しだし、無表情に尋ねてくるスクアーロ。

「・・・吃驚箱?」

スクアーロの問いに、実に気まずそうにがぼそりと答えた。

近くでみてわかったが彼の目元にはうっすらくまが見える。

「・・これを俺の部屋の、ベットの上に置いたのはお前かぁ?」

「・・・はい」

任務明けで疲れているであろうに、わざわざ文句を言いに自分の部屋に来てくれたことを嬉しく思いつつ、ひっそりと罪悪感も沸いてくる。

「一つ言っておく、」

「・・はい」

「俺はたった今任務から帰ってきて疲れてる」

「・・・はい」

鼻と鼻の先がくっつきそうなほど近くで言われ、内心ドキドキしつつも、さっきまではひっそりだった罪悪感が次第にドキドキの前に押し出て主張し始めている。

はスクアーロの顔が見れずに目を泳がせながらソファの上で正座した。

「で、帰ってきて寝ようとしたらベットの上にこの箱があって・・」

スクアーロはぼよんぼよんと揺れている人形を手で掴んで静止させる。

「疲れているにも関わらずお前の部屋まで文句を言いに来た」

そこで一旦言葉を止め、「なにか言うことは?」と鋭い眼光でを見つめた。

「・・ごめんなさい」

俯いて謝罪すると、「ふぅ」という短い溜息のあと、頭に手の感触を覚え恐る恐る顔を上げてみれば、さっきまでの怖い顔のスクアーロの姿はなく、いつも通りの笑みを浮かべた彼がそこにいた。

こういう顔のスクアーロは、もう怒ってないということだ。

心の中でほっと胸を撫で下ろし吃驚箱に興味を示し始めたスクアーロを観察してみる。




「お前雑用の仕事はしねぇのにこんなもんばっか作るよな」

呆れたような顔で、しかし楽しげに呟くスクアーロは二十歳を過ぎたいい大人だというのに子供のようだった。

「どうやったらあんな勢いよく飛び出すんだぁ?」

彼が言うには、よくベルにも吃驚箱は貰うがここまで勢いよく飛び出してきたことはないそうだ。

だがしかし、特別な改良を施したわけでもなく、普通にバネに人形をくっつけて箱に押し込んだだけのそれにそこまで勢いがつくものなのだろうか・・・?

「多分、放置された分だけ勢いよく飛び出す」

と、適当なことを言ってみると、スクアーロは「そうなのかぁ!?」と驚いてこっちを見つめた。

うわー、信じちゃったよ。バカな奴。と、心のなかでバカにして、表では「ふふふ」と愛想よく笑う。

「スクアーロの帰りが遅いほど、俺の寂しさに比例して中の人形もはりきっちゃうんだよ」

言葉の中に本音を混ぜつつ、わざと膝に顔を埋めて呟くと、スクアーロが黙る。

気配でわかるのだが、多分何を言っていいのかわからないのだろう。

わざとやってる自分としては、「めっちゃ可愛い、スクアーロ可愛い可愛い可愛いk(以下略」としか思っていないのだが。

ぶっちゃけてしまうと、スクアーロが任務でいない日はほとんど一日中ベルとゲームをして遊んでいる。なんてことは口が裂けても言えない。

「・・・ん?」

「ん?」

急に疑問符をつけて言葉を発したスクアーロを不思議に思い顔を上げると、なにやら箱をじっと見つめていた。

それが気になっても一緒になって箱の中を覗いてぱっと目を逸らした。

・・・やばい。すっかり忘れていた。

箱の底に見つけたもの、それは箱を作っていたときに

「ダブルで吃驚」

と、ベルが持ってきたものだった。

その時はテンションに任せてそれも一緒に入れてしまったが、今の状況ではやばいのではないのかと、冷や汗をかく。

ちらっとスクアーロのほうを見ると、人形をひっぱってとろうとしていた。

俺はそれを慌てて止めようとしたが一歩遅く、引っ張られた人形は箱から外れ、箱からは人形の代わりに銀色に光る・・・・


小さなナイフ。

箱からものすごいスピードで飛び出してきたそれはスクアーロの頬をかすめ、天井に突き刺さった。

やべぇ、と固まっているスクアーロをおいてそろりそろりと逃げようとすると、

がしっと腕を捕まれ逃走を阻止される。

恐る恐る振り向くと、言葉に表せないほどの怒りの表情を浮かべたスクアーロが俺を見下ろしていた。


その後、城中にスクアーロの怒声と、俺の悲鳴が響いた。



パリンッ

「・・・アンビリーバボー」

持っていたグラスが割れ、ベルは一言呟いた。







end