自分でも何がおきたのかよくわかっていなかった。

俺はいつものように、普通に学校に行こうとしていて、

ちょっと眠くなったからほんの少しだけ目を瞑っただけで・・・

目の前にあった電柱に気付かずに額をぶつけて、吃驚して目を開けたら

そこは知らない建物の中だったのだ。




トリップ オア リターンズ




は、わけがわからず目を見開いてキョロキョロしていると、

ふと誰かの視線を感じ振り返る。

そこには俺と同じく目を見開いて驚いている男がいた。

だが、俺と目が合うと鋭い目つきで睨んできて、

「てめぇ、どこから入ってきた?」

と言った。

俺はその問いになんと答えていいのかわからず、

とりあえず首を傾げた。

すると男は、少しだけ目を輝かせて、期待をこめてまた俺に尋ねる。

「お前・・・忍者か?」

思わず間抜けな声がでそうになって、慌てて口を押さえる。

こいつ、本気でそんなことを言っているのだろうか・・?

「ぶはっ、やはりそうか!日本には忍者がいると聞いたことがあるからな」

もしかして、黙っていたから黙認ととられてしまったのか、男は愉快そうに笑った。

それを否定しようと、口を開いたとき、俺の丁度後ろにあった扉が勢いよく開いた。

もちろん俺はそれに吹っ飛ばされるわけで、後ろから押されたものだから、

顔面を床におもいきりぶつけてしまった。

「ゔお゙おい!ボス!今帰ったぞぉ!」

耳を塞ぎたくなるような声量に顔を顰めると、ガシャンという音がして

割れたグラスの破片がコツンと頭にあたった。

「・・て・・てめぇ何しやがる!」

「ノックをしろといっただろう、ドカスが!」

どうやらグラスを投げたのはさっきまで会話(?)をしていた男のようで、

そのグラスが命中したのが、今入ってきた男らしい。

「てめぇのせいでそこの忍者が死んだらどうする」

「は?忍者だぁ?!」

至極真面目な顔で、ボスと呼ばれた男は、鼻を押さえている俺をみて言った。

その視線をたどり、もう一人の男が倒れている俺を凝視する。

「こいつのどこが忍者なんだぁ?ザンザス」

「見てわかんねーのか、ドカス」

「俺には普通の人間にみえるぞぉ」

訝しげに俺を見つめる・・・・ドカスさん?

「だから・・・俺は普通の」

立ち上がりながら言おうとした言葉を、ザンザスによって阻まれた。

「おい忍者、なんかやってみろ」

なんかってなんだよ。

忍術?普通の一般人の俺に忍術をやれと?

バカめ。できるわけなかろうに。俺は忍術は勿論のこと運動すらろくにできない

頭脳派(そんなに頭よくないが)人間なんだぞ。

「えーっと・・・ザンザスさん?俺は忍者じゃないし、忍術もできない普通の人間なんですけd「できんだろ?」

言葉を途中で遮られたついでに銃を構えられた。

モデルガンだとは思うが、眼光に怯み、ついつい頷いてしまった。

「忍者といえば分身の術だ」

やれ、と無言で促され、俺はたじろいでしまう。

簡単なものならまだやってみる気はあったが、分身を要求されようとは・・・

第一分身て本当に増えてるわけじゃなくて目にも留まらぬ高速の速さで移動して

その残像が所謂分身なんだろ?

言っておくが(心の中で)俺の50mのタイムは、友達にも「お前本気で走ってんの?」

と言われるほど遅い。

いやしかし、できないと知ればさっきから俺を凝視している二人の男も諦めてくれるだろう。




「秘儀・・・・分身の術〜・・・」

忍者がやるように手をあわせ、言ってて自分で恥ずかしくなるような台詞を言って目を閉じる。

と、部屋の中に沈黙が訪れた。

そーっと目を開いてみれば、ザンザスなる男は口をぽかんとあけて静止している。

ちらりと俺の隣の、ドカスなる男も、同じように口をあけていた。


・・・驚愕しているようにも見えるが、そんなに俺の行動は人から見ても恥ずかしかったのか。

ふぅ、と溜息をつくと、自分の真横からも同じように溜息をつく気配がした。

はて、俺の右隣には誰もいなかったはずだが?

「て・・・てめぇ」

俺が横をみようとするのと同時にザンザスが喉から声を絞り出した。

しかし、あまりに驚きすぎてなのか、言葉は途中でとまり、かわりにドカスが叫ぶ

「ゔお゙おい!本物の忍者だったのかぁ!!」

そんなドカスの叫びは俺の耳にははいってこなかった。

なぜなら、俺は隣にいたもう一人の俺を見て硬直していたのだから。

「スクアーロ!全員をここへ呼べ!」

ザンザスが、きらきらと目を輝かせているスクアーロに向かって命令する。

それを聞き、スクアーロは「任せろぉ!」と言って早急に部屋から飛び出し走っていった。

今の俺にはそんな二人の行動も見えず、ただ、隣で呑気に欠伸をするもう一人の俺をじっと見ているのが精一杯だった。



父さん、母さん、どうやら俺は忍者だったようです。

将来の夢はまだ決まってなかったけど、どこかの隠密になろうとおもいます。


あなた方の最愛の息子、より。








end