「何してんの?

「いや、なんていうかね。自分でもなんでこんな格好してるかわかんない。」







メイド






部屋をでたら何故か、フリフリのエプロンを身につけ、黒のゴシック風のスカートをはいたが立っていた。

これは所謂、メイドさんというやつだ。

「お前ついに自分の性別もわかんなくなった?」

「こるぁ、ちょっとまて。ついにってなんだよ。それじゃまるで俺がアフォみたいじゃないか」

できていない巻き舌で、いたって普通の顔でベルの言葉を咎める

そんなにお構いなしに、ベルはのスカートをひらりとめくって中を覗き見る。

「わーお、何大胆にセクハラしてんだ」

彼の性格なのだから仕方ないのだが、やる気のない顔で言われても怒っているようにはみえない。

「パンツは男物じゃん」

「当たり前だ」

スカートを捲るベルの手を叩き落とし、振り返って視線をあわせると、はベルに向かって言った。

「とりあえずさぁ、俺の服探すの手伝ってくんね?」





どういった経緯でがメイド服をきているのかもまだ聞かされていないまま、ベルはの服探しをしていた。

その様子を、近くにいたザンザスが好奇の目で見つめている。

何をしているのか聞きたそうで、だけど聞けない。

「ん〜・・・ねぇし」

ごみ箱をひっくり返し、引き出しの中身もひっくり返し、ソファカバーをぺらりとめくったが、の服どころか布切れすら見つからず、ベルは部屋から出て行った。

取り残されたザンザスは、散らかった部屋を呆然と見つめ、やがて 自分は何も見ていないと、誰かに見つかる前に足早にその場から立ち去った。



〜、みつかんねーよ。」

「こっちもみつかんねー。なんだよコレ。いじめ?」

がっくりと肩をおとし、自分が着ているメイド服を掴んでぐるぐる回る

ベルはそれをただじっと見ていた。

「てかさー、」

回っているに、ベルは窓枠に腰を下ろし、尋ねる。

「なんでお前メイド服着ることになってんの?」

気になっていた経緯を尋ねると、はまだ回りながら「それはね〜」と切り出し、

ピタリととまって話し始める。

「朝起きたら、俺パンツ一丁で寝ててー・・そんで、服着ようと思ってクローゼット開けたらなんもなくて、床におちてた服きた」

それが、メイド服だったらしい。

「なんでお前パンツで寝てんだよ」

冬だというのにバカじゃね?と続けると、は頬を膨らまして

「俺ちゃんと服着て寝たもーん」

とそっぽを向いた。

「はぁ?じゃあ誰かが脱がせた?」

何それ、王子の所有物()に気安く触ったうえに服脱がせたとか、殺すよ?

「てかもう、このままでいいや。服探すの飽きたー」

自分のことだというのにこのだらけ様、本当にこいつは物事全てに関してどうでもいいようだ。

「いいわけねーし。」

ひょい、と窓枠から降りると、ベルはの手をとりどこぞへと連れて行く。

「そんな足だしてたら風邪ひくし、第一」

他の誰かに見られたら俺が困る。

「何〜?」

どうやらは聞いていなかったようで、特有の口調で聞き返してくる。

・・・むかつく。殺してぇ〜・・・。あ、殺しちゃだめか。

「あら、ベルちゃん」

廊下を歩いていると、曲がり角から大量の洗濯物を持ったルッスーリアが現れた。

「丁度いいところにも一緒じゃない」

そういって彼は、洗濯物の山のなかから一部をとりだすと、に渡した。

「あ、俺の服」

見覚えのある柄に、広げてみると、がいつも着ている服だった。

「あー・・・」

そういえば、朝ルッスーリアが部屋にきて・・「たまには服洗いに出しなさいよ」と、床に散らばっている服を全部持っていったんだった。

俺、クローゼットに服いれねーし。

「ありがとう」

ぽかんとしているベルには真相を話さず、俺はその場で着替えを始める。

・・・待てよ?ルッスーリアは俺のパジャマまでは剥ぎ取らなかったはず・・・

「あ、」

ぽんと、は手を叩いた。

「俺の服脱がしたのスクアーロだ」

「は?」

スクアーロはルッスーリアの後に俺の部屋にきて、何日も洗っていないパジャマを剥ぎ取ってでていったんだった。

「洗い終わるまで布団で寝てろぉ」

という台詞を残して。


「先輩何してくれちゃってんだよ」

と、真相の一部分だけをきいて誤解したベルが、ナイフ片手にスクアーロの部屋に走っていった。

止めようとしたが、そこにはもうベルの姿はなく、伸ばした手は行き場を失い空中で停止している。

「どうしたのベルちゃん?」

後に残ったルッスーリアが人差し指を口元にあてて尋ねてくる。

説明するのが面倒なので「知らない」と言って、脱いだメイド服をぐしゃぐしゃのままルッスーリアに押し付ける。

、本当にこれ着たのね」

うふふ、と笑うと、ルッスーリアは残りの洗濯をするために去っていった。

残された俺の脳裏に、朝の彼の言葉が蘇る。





「どうしても起きたくなったらこれきなさーい!おほほほ!」




*END